東京地方裁判所 昭和39年(ワ)7004号 判決 1966年9月13日
原告 株式会社東京相互銀行
右訴訟代理人弁護士 林徹
被告 神田武
同 佐藤喜代美
右両名訴訟代理人弁護士 清水正明
主文
被告らは原告に対し各自金八〇万円、及び内金四〇万円に対する昭和三九年四月九日から、内金四〇万円に対する同年五月一日から各支払ずみまで、被告神田武は年六分の割合による金員を、被告佐藤喜代美は一〇〇円につき一日金五銭の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
この判決は仮りに執行することができる。
事実
<全部省略>
理由
1、原告主張の請求原因事実について。
<省略>を綜合すれば、
原告銀行(中野支店扱)は昭和三八年一〇月三一日付及び同年一二月四日付各手形取引約定書<省略>を以て右各日付の頃、訴外大川正夫との間に原告主張の(イ)及び(ロ)の手形貸付等の取引約定を締結し、被告佐藤は前同日頃原告に対し、右約定に基く大川の原告に対する手形債務及び日歩五銭の割合による約定損害金債務につき連帯保証を約したこと、原告は右(イ)の取引約定に基き、昭和三八年一〇月三一日大川に対し金四〇万円を弁済期同三九年二月二九日の約で貸付け、その担保として被告神田振出の同金額、満期同三九年二月二八日の約束手形を大川から裏書譲渡を受けたが、右貸金債務の弁済期が昭和三九年四月三〇日に延期されたのに伴い、被告神田振出の担保手形は原告主張の(2)の手形(甲第三号証の一)に書換えられ、大川は右(2)の手形を原告に拒絶証書作成義務免除の上裏書譲渡したものであること、次に原告は前記(ロ)の取引約定に基き、昭和三八年一二月一一日大川に対し金四〇万円を弁済期同三九年四月九日の約で貸付け、その担保として被告神田振出の原告主張(1)の約束手形(甲第二号証の一)を大川から前同様拒絶証書作成義務免除の上裏書譲渡を受けたこと、原告は右(1)(2)の手形の所持人として各満期である昭和三九年四月八日及び同月三〇日にそれぞれ支払のため支払場所に呈示したがいずれも不渡となったこと、<省略>。
従って、原告主張の請求原因事実を全部認めることができる。
2、被告らの抗弁について。
(一) 被告らは、(1)(2)の手形は大川に詐取されたものであって、被告神田はその当時大川に対し振出行為を取消した、原告は右事情を知りながら、又は銀行として当然の調査を怠った重大な過失により右各手形を取得したものであるから、右手形上の権利を有しない旨主張する。
被告神田武の本人尋問の<省略>と、(1)の手形はその振出日付の当時乳酸菌飲料販売店を営んでいた被告神田、同佐藤夫婦(内縁関係)に対し大川が右手形により銀行で金融をうけ融資金は直ちに被告らに手交する旨確約した上で持ち帰ったものであるが、その後一週間余を経過しても大川は約束の融資金を持参しないため、被告らは大川に対し手形の返還を求めたけれども、大川は言を左右にして手形の返還もせず融資金の交付をもしなかったこと、(2)の手形については大川が全額四〇万円を自己の責任において決済する旨被告らに確約していたにかかわらず、大川は期日を経過しても右手形の決済をしなかったことが認められるけれども、原告が右各手形の取得に当り、大川と被告らの間に被告ら主張のような事情あることを知っていたとの点は本件全証拠によるも到底これを認めることができない。
そして、前顕甲第一〇号証によると、原告と大川間には昭和三六年一一月以降同三九年二月までの間金融取引が継続されており、その最終残高は一三〇万円に達していることが認められ、又証人川嶋勝義の証言及び被告神田武の本人尋問の結果によると、大川は右金融取引の当時原告銀行中野支店の近隣に住んでいたことが認められるが、一方<省略>によれば、原告銀行中野支店においては生鮮食品仲買卸業を営む大川との間に前記金融取引を開始するに際し、大川の業種、営業規模、人物、取引状況等の信用調査をした外、本件(1)(2)の手形取得の基礎となった昭和三八年一〇月三一日、同年一二月一一日の各金四〇万円の大川に対する貸付に際しても、従前債務の決済状況、資金使途等につき検討すると共に、連帯保証人たる被告佐藤についても昭和三九年一二月初旬面接調査をなし、更に担保手形である被告神田振出の手形は従前大川から同様趣旨で提供を受け期日に決済された実績あること等を勘案し、前記貸付金につき大川に決済の見込があり、被告らの担保能力も充分であると判断した上で貸出に応じたもので、その間格別落度がなかったことが認められるので、本件手形取得につき原告に被告主張のような調査を怠った重大な過失あるものとは認め難く、他に右認定を左右するに足りる適確な証拠はない。<以下省略>。